
エヴァルド解説 ~ V. Ewald金管五重奏曲全曲演奏会
先日、エヴァルドの金管五重奏曲をぶっ通しで4曲すべて演奏するというとち狂った演奏会を開催しました。それに向けて作成した司会原稿が、エヴァルドの概説としてよくできたなと我ながら思い、せっかくなので公開することにしました。側だけ作って放置していたブログの記念すべき初回投稿です…!
演奏会の様子はこちらから。

作曲家について
(第2番~第3番間)
只今演奏しました曲は、エヴァルド作曲、金管五重奏曲第2番でした。
さて、本日取り上げる作曲家、ヴィクトール・エヴァルドについて簡単にご紹介したいと思います。
エヴァルドは、1860年にロシアに生まれ、1935年に亡くなるまで、サンクトペテルブルクを中心に活躍した作曲家です。この時代のロシアの作曲家の多くがそうであったように、彼もまた本職は土木技師として働きながら、演奏、作曲活動を行っていました。
当時のサンクトペテルブルクでは、豪商のベリャーエフがパトロンとしてこうした作曲家たちを支えており、金曜日になると彼の邸宅で室内楽のセッションが行われ、そこで皆、新曲を発表していたそうです。その後セッションは宴会へと姿を変え、深夜まで続いたとか。この辺りは、今も昔も変わらない音楽家の習性ですね。この集まり・通称ベリャーエフ・サークルには、ムソルグスキーやグラズノフといった作曲家たちが名を連ね、エヴァルドもこのメンバーの1人でした。
彼の1番の功績は、金管楽器による室内楽をスタイルとして確立させたことにあると言われています。19世紀初頭にバルブシステムが発明されるまでは、金管楽器は構造上自由に音階を吹くことができず、アンサンブルといえばもっぱらファンファーレのようなものでした。しかし、エヴァルドが生きた時代、バルブ付きの金管楽器が急速に広まりました。そこで、エヴァルドは、金管楽器を、弦楽器や木管楽器と同様に室内楽器として用いるスタイルを新たに確立させたのです。
こうした功績を称えて、時に「金管五重奏の父」と呼ばれています。
さて、そろそろ演奏者の体力も回復してきたでしょうか? それでは、続いて金管五重奏曲第3番をお聞きください。
弦楽アンサンブルとのつながり
(第1番~弦第1番間)
ただいまお聴きいただいた曲は、金管五重奏曲第1番でした。
この曲は、現在知られているエヴァルドの4つの金管五重奏曲の中では最後に作曲されたものです。演奏時間が短く、技術的な難易度も「比較的」低いこと、また西ヨーロッパ的な音楽技法とロシアの民族的旋律を織り交ぜる彼の作曲スタイルがよく表れていることから、今日まで最も人気のある曲となっています。
さて、次に演奏します曲は、弦楽四重奏曲第1番です。プログラムをご覧になって、なぜ金管五重奏の演奏会なのに弦楽四重奏曲があるのか、疑問に感じた方もいるかと思います。演奏者が休憩したかった、という本音はさておき、実は、この曲は、エヴァルドの金管五重奏曲を理解するうえで、とても大切な作品となっています。
エヴァルドは、一通り金管楽器は演奏できたと言われていますが、それに加えてチェロも弾くことができたそうです。先ほど、豪商・ベリャーエフのサークルについてお話ししましたが、エヴァルドはこのベリャーエフが主宰する弦楽四重奏のチェリストでもありました。そして、弦楽器のための室内楽作品も多く残っています。
実は、本日最後に演奏する金管五重奏曲第4番は、弦楽四重奏曲第1番からの編曲作品と言われています。というよりも、調性以外は全く同じです。このことは、エヴァルドが金管アンサンブルを作曲するにあたって、弦楽アンサンブルの作曲技法を用いているということを顕著に表しています。
ぜひこの2つの作品をぜひ聞き比べ、どのくらい似ているか、あるいは楽器が違うことでどのような違いが生まれているか、感じていただければと思います。
それでは、弦楽四重奏曲第1番をお楽しみください。
楽器について
(弦第1番~第4番間)
弦楽四重奏曲第1番をお聴きいただきました。 金管の皆さんは、休憩ができたでしょうか?
ここまでご覧になって、見覚えのない楽器が多く、気になって仕方がない方がいらっしゃると思います。
現在、金管五重奏曲といったときには、2本のトランペットとフレンチホルン、トロンボーン、チューバによるアンサンブルを一般的に指します。
しかし、このスタイルが確立されたのは20世紀後半になってからです。
19世紀においては、金管アンサンブルの主役は、コルネット、アルトホルン、テナーホルンといった、いわゆるサクソルン属の楽器でした。
今日においては、この時代の曲であっても、トランペットやトロンボーンといった現代のスタイルの楽器に置き換えて演奏することがメジャーになっていますが、この演奏会では、あえてオリジナルに近い編成を再現しています。
こうすることで、まさにエヴァルドがイメージしたであろう、弦楽四重奏に同じような、同族楽器による一体感のあるサウンドを作ることができます。

さて、それでは、いよいよ本日最後の曲、金管五重奏曲第4番になります。先ほども申し上げました通り、この曲は、弦楽四重奏曲第1番からの編曲作品とされています。そのため、金管アンサンブルとしては演奏時間が非常に長く、各楽器の音域から外れた音が出てくるなど、かなり演奏難易度の高い曲となっています。実際、初演時、エヴァルドもチューバで参加するも、最後まで吹ききれなかったという逸話が残っています。今日のメンバーは、最後まで演奏しきることはできるでしょうか?
最後までごゆっくりお楽しみください。